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  • 2016年
  • 研究発表会

「海外の高等職業教育の現状と課題」テーマに九州大准教授らが研究発表

「海外の高等職業教育の現状と課題」をテーマに開かれた滋慶学園グループの研究発表会

「海外の高等職業教育の現状と課題」をテーマに、滋慶学園グループ国際部ミーティングの研究発表会がこのほど、滋賀県内の研修所で開催されました。会議では2019年度の「専門職業大学」の開設を前に、滋慶学園グループの海外センターから各国に於ける高等職業教育の現状などが報告されるとともに、職業資格に関する能力基準の標準化への世界的な動きなどが報告され、活発な質疑応答が繰り返されました。

会議の冒頭、キーノートスピーチとして、滋慶学園の元教職員で高等職業教育を研究テーマとする九州大学第三段階教育研究センター准教授の志田秀史氏が「若者の雇用を取り巻く背景と高等職業教育体系〜日本・韓国・中国・オーストラリア・アメリカ・フランスの比較から〜」と題して講演を行ないました。

志田准教授は、世界的な兆候として、大人になる道のりが複雑化し、貧困のために社会から排除される若者が漸増、格差の拡大が広がっている、と若者が置かれている状況を分析した上で、日本を含め、アメリカ、韓国、中国、オーストラリア、フランスにおける高等職業教育体系について紹介するとともに、フランスやオーストラリアでは中等職業教育や高等職業教育が占める比重が極めて大きいことや、韓国でも大学の就職が厳しい状況から職業大学校などの体系化が日本よりも進んでいると報告を行ないました。

世界規模で進む“職業能力の標準化” EU標準について説明

九州大学の志田准教授によるキーノートスピーチ

志田准教授はさらに職業能力基準を標準化しようとする各国の動きについても紹介。高校2年レベルから大学院修士2年レベルまで、修業年限ごとに身につける①知識、②スキル、③コンピテンスのレベルを8段階に分類し、各国の留学生同士が充実した学びを得られるようにと合意された「EU標準 学術・職業教育資格枠組み表」を例に、EUの取り組みや、2014年から15カ国によって取り組んでいる「東アジア技術職業教育訓練事業者ネットワーク」(East Asia Summit TVET Provider Network)の活動事例を報告するなど、世界的に職業能力基準の標準化への取り組みが進んでいることを報告しました。

国家資格の枠組み策定状況では、「制定済み」「開発中」「検討中」の3グループに国を分類。「制定済み」は、英国やEU諸国、香港特別区、マレージア、シンガポール、タイ、フィリピン、ニュージランドなど12カ国・地域を列挙しました。また「開発中」として、韓国、パプア・ニューギニア、トンガ、ベトナム、ベルギー、アメリカなど15カ国をあげ、アメリカは2年ほどで制定済みのグループに入るだろうと報告。「検討中」は、日本を含めて、中国、アフガニスタン、ブータン、カンボジア、ラオスやアフリカ諸国など26各国を挙げました。

そして、一つの国で認められた資格が世界のどこででも通用する社会の形成に向けて、今後の各国における国家資格の枠組み作成は、①EU標準を参照し、②各国独自の国家資格枠組みを作成、③分野ごとの作成という手順で進められるだろうと述べ、EUの枠組みが“世界標準”になるとの見通しを示しました。同時に、業界団体など分野ごとの枠組み作りについても事例をあげて紹介しました。

資格枠組み作りへの各国に於ける省庁間協力について、浮舟総長から質問が飛びました

質問をする浮舟総長。向こう側は宮川藤一郎副理事長

講演後には、「医療テクノロジストの資格枠組みに対するそれぞれの国の官庁同士の足並みは揃っているのか」など、浮舟総長から質問が飛び、オーストラリアやマレーシア、韓国などすでに枠組み作りを終えた国や、現在進めている国では複数の関係官庁同士がうまく連携している事例が志田准教授や国際センターや海外センター代表らから紹介されました。

さらに浮舟総長からは、「医療テクノロジストの資格認定とレベル化は分かりやすいし、今後のポイントになってくるだろう」と示唆する発言も出るなど、主要各国に出先機関をもつ滋慶学園グループならではの真剣な意見交換が行なわれました。

各海外センターから高等職業教育の現状と課題が報告されました

このあと、高等職業教育についての各国の現状と課題が滋慶学園グループの各海外センターより報告されました。

中国

上海センターの李軒氏

上海センターの李軒氏からは、職業技術学院と大専、高等専門学校など中国の高等職業教育機関は、ここ10年ほどで私立が増えており、23%になっていることや、高等職業教育機関は、①これまでの政府主導から学校主導に転換しつつある、②規模の拡大から中身(教育)重視へ、③閉鎖型の学校運営から開放型の学校運営へ移行しつつあり、産学連携も盛んで、その比重も高まりつつあるとの報告がありました。

韓国

韓国センターの鄭代表

韓国センターの鄭恩周代表からは、韓国の現状と課題が報告されました。

韓国では、就職が難しいため、恋愛と結婚、出産をあきらめる若者の“三諦時代”と言われ、就職率を上げるために、国は専門大学を高等職業教育の中心機関に育てようとしていることや、新しい動きとして、ドイツやスイスの徒弟式教育訓練制度を韓国向けに設計した、働きながら学べて資格や学位が取れる教育プログラムが注目されていると、報告がありました。しかし韓国は儒教の国で学歴社会なので、職業教育重視のNCS(国家職務能力標準)中心に回るにはあと数年はかかるだろうとの補足がありました。

オーストラリア

オーストラリアのセンターのマシュー・マネージャー

オーストラリアのチュー・マシュー・マネージャーからは、オーストラリアでは各州ごとに教育制度や教育内容が異なり、それが競争を生んで教育は第4の産業規模になっていると報告がありました。職業教育はVocational Education and Training(VET)といい、専門学校は、州政府からFUNDをもらって運営する職業訓練専門学校(TEFE:Technical and Further Education)と私立の専門学校に大別され、TAFEは4000校あり、国のサポートも大きく、利息なしの奨学金など、学費だけでなく生活費のサポートもあり、返還も5万5千ドル以下の収入なら返還しなくていいなど、手厚い国家による教育行政が報告されました。

フランス

ヨーロッパセンターの高島マネージャー

ヨーロッパセンターの高島和宏マネージャーからは、フランスの高等職業教育について紹介がおこなわれ、1990年代から若者の高い失業率が問題になっていて、2015年現在、若者の失業率は25%で、このため、職業教育の充実と産学連携が進められていることや、高等教育への進学率は41%で、ほとんどの人は中学を卒業後に働き、高校進学する場合も就職を目的に進学先を選ぶケースが多く、職業適性資格と高校卒業資格を同時に取れる「職業バカロレア」の取得率が極めて高い、との報告がありました。

フランスではディプロマの有り無しによって就業率が変わる

専門学校では、将来、独立や起業のために必要なマネジメント力やセルフプロデュース力をつけるというのが、キーワードになっています。フランスでの就職はディプロマを持っているかどうかで就職率に大きな違いがあり、フランスが誇る高級ブランドを守ろうと、新しい教育プログラムとして、「職人の地位の向上」をはかるために、職人にも最高位のディプロマを授ける国公立の学校が出てきたケースなどを紹介しました。

アメリカ

滋慶アメリカセンターロサンゼルスのクリス代表

アメリカからは滋慶アメリカセンターロサンゼルスのクリス福間代表と同センターUWFのダグラス・トレルファ・ディレクターから報告がおこなわれました。

アメリカは州によって、教育施策が異なり、カリフォルニア州では、専門学校は300校ほどあり、プライベート校で学費も高いため、ローンを借りている人が多い。大学はさらに高い学費で、アメリカでは自己破産しても学費ローンだけは返さなければならないので、利子が高くて返還できないことが問題になっているとの報告がありました。また、アメリカでは、職業教育として、CAD講座(Computer-Aided Drafting)や刑法、料理やホスピタリティ、エアコン修理、サイバーセキュリティなどIT・情報工学などに人気があると報告がおこなわれました。

浮舟総長 「高等教育の単線化は無理があると感じられた」

最後に、浮舟総長からは、「それぞれの国で職業教育ということが変化している。キーノートスピーチや各海外センターからの報告を聞いて、各国の高等教育が単線化していくことには無理が感じられた。職業ラインとアカデミックラインとの複線化が必要だろうと思う。また、ディグリーが良くてディプロマはだめだという価値観ではなく、それぞれの価値を認める発想が必要だと思う」と総評があり、この日の会議を滋慶学園グループの次期5カ年計画に生かしていければと締めくくりました。

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